私は両親が建築士で、忙しい共働き家庭に一人っ子として育ちました。
愛されていた自覚はありますが、どこか記憶の中に寂しさがあります。
お父さんがリビングで設計図の図面を書いていたり、建築現場へ連れて行ってもらったりするのが当たり前の日常で育ちました。そこから自然と建築の道へ進み、いつも住まいや暮らしのことを考えていました。


大学で一人暮らしを始め、建築学科に進んだ私は設計事務所でアルバイトをしました。そこでは週1回、持ち寄り夕食会があり、社長が丁寧にダシを取った味噌汁を振る舞ってくれました。一人暮らしの学生にとって、温かい手作りの味噌汁は心に沁みるひとときで、ひとりぼっちの人を無くしたいと考える原点となりました。
さらに、デンマーク留学での経験も私に大きな影響を与えました。彼らの生活はシンプルで心地よく、冬の暗い日々でも、キャンドルを灯して家族とその日を振り返る時間を大切にしています。また、家を持つ・借りる以外の新しい住まい方にも触れることができました。これが、私が「コレクティブハウス」という共生の場を作る夢を描くきっかけになったのです。


私が理想とするコレクティブハウスは、年齢や家族形態に関係なく多様な人々が共に暮らし、誰かの「苦手」を他の誰かの「得意」が補い合える場所です。小さくても優しく温かい社会を築けると信じています。
学生時代の卒業論文では「なぜ人は家を持ちたいのか」をテーマに研究し、住まいに関する経験がその価値観に大きく影響することを知りました。そして修士論文では「なぜ良い賃貸住宅が少ないのか」を考察し、賃貸住宅が投資家目線で建てられることが多いため、住み心地が後回しになっている現実を学びました。一方で、心ある大家さんにも出会い、この経験が私の夢を後押ししました。


卒業後は北海道の公的機関に勤務し、家庭科教育における住まいの分野強化や地域づくりに取り組みました。「どの家に住むか」だけでなく「どの地域で暮らすか」の視点を持つ大切さを広める活動を行いました。
しかし、私が大きな転機を迎えたのは子育てでした。それまで順調に歩んできた私が初めて「努力だけでは解決できない壁」にぶつかり、自己中心的な視点に気づかされました。子育てコーチング講座を通じて、「子どもは他人」「常識は人それぞれ」など多くの気づきを得て、自分を深く内省することで、コレクティブハウスの夢がより明確になりました。


現在は、家づくりや住まい選びを考える方々のサポートを行っています。ただ建築士としての知識を教えるのではなく、コーチングを通じて「あなたは本当はどうしたいのか」を引き出し、クライアント自身が心の奥底にある本音に気き丁寧に寄り添うことを心がけています。
家を通じて人生を見つめ直し、皆が「自分らしい暮らし」にたどり着けるようにお手伝いすることが、私の使命です。



自宅の写真提供:Ikuya Sasaki